現代仮名遣いでは「差詰め」は「さしづめ」で良いと思います

学校では教えてくれない日本語の秘密 - プログラマ的京都生活 という記事を読みました。おどろおどろしい事が書かれていてびっくりするのですが、なにか誤解があるような気がしてなりません(記事に挙げられている本は読んでないので分かりませんので、記事に書いてあることについてです)。もちろん日本語の表記について思うところは人それぞれであるかと思います(私自身は日本語だけど国語の人じゃない上に意味論の人なので表記にはあまり思うところがありません)。しかし、現代において基準とすべきなのは、あくまでも「現代仮名遣い」であって、「現代かなづかい」ではないと思います。なので今更「現代かなづかい」を基準として現代の日本語表記を語っても仕方ないと思います。えーと、プログラマ的にたとえるのならば、今更Perl4でjcode.plをもってPerlがさぁ、みたいな話をしてもちょっと困ります、みたいな?

どう考えても表記上似通っているこの二つがどのくらい違うのかというと、建前がとっても違います。まず「現代かなづかい」における「「現代かなづかい」の実施に関する件の実施に関する件」を引用します。

國語を書きあらわす上に、從來のかなづかいは、はなはだ複雜であつて、使用上の困難が大きい。これを現代語音にもとづいて整理することは、教育上の負担を軽くするばかりでなく、國民の生活能率をあげ、文化水準を高める上に、資するところが大きい。それ故に、政府は、今回國語審議会の決定した現代かなづかいを採択して、本日内閣告示第三十三号をもつて、これを告示した。今後各官廳においては、このかなづかいを使用するとともに、廣く各方面にこの使用を勧めて、現代かなづかい制定の趣旨の徹底するように努めることを希望する。

というわけで、志しは素晴しいと思いますが、やや余計なお世話感が漂っているとも言えます。一方「現代仮名遣い」の「前書き」は次のようになっています。

1.  この仮名遣いは,語を現代語の音韻に従つて書き表すことを原則とし,一方,表記の慣習を尊重して,一定の特例を設けるものである。
2.  この仮名遣いは,法令,公用文書,新聞,雑誌,放送など,一般の社会生活において,現代の国語を書き表すための仮名遣いのよりどころを示すものである。
3.  この仮名遣いは,科学,技術,芸術その他の各種専門分野や個々人の表記にまで及ぼそうとするものではない。
4.  この仮名遣いは,主として現代文のうち口語体のものに適用する。原文の仮名遣いによる必要のあるもの,固有名詞などでこれによりがたいものは除く。
5.  この仮名遣いは,擬声・擬態的描写や嘆声,特殊な方言音,外来語・外来音などの書き表し方を対象とするものではない。
6.  この仮名遣いは,「ホオ・ホホ()」「テキカク・テッカク(的確)」のような発音にゆれのある語について,その発音をどちらかに決めようとするものではない。
7.  この仮名遣いは,点字,ローマ字などを用いて国語を書き表す場合のきまりとは必ずしも対応するものではない。
8.  歴史的仮名遣いは,明治以降,「現代かなづかい」(昭和21年内閣告示第33号)の行われる以前には,社会一般の基準として行われていたものであり,今日においても,歴史的仮名遣いで書かれた文献などを読む機会は多い。歴史的仮名遣いが,我が国の歴史や文化に深いかかわりをもつものとして,尊重されるべきことは言うまでもない。また,この仮名遣いにも歴史的仮名遣いを受け継いでいるところがあり,この仮名遣いの理解を深める上で,歴史的仮名遣いを知ることは有用である。付表において,この仮名遣いと歴史的仮名遣いとの対照を示すのはそのためである。

ってわけで、例外ばっかり挙げられていてなんだかとっても弱気な印象です。そもそも「よりどころ」としか言ってないし、その上「個々人の表記にまで及ぼそうとするものではない」と明確に断りがあります。逃げ道はたくさん用意されているので、なにも「現代仮名遣い」に従わないからといってどうなるわけでもありません。だから、歴史的仮名遣いは優れている!と思う人は各自の判断として使えばいいのではないのでしょうか。実際そういう先生もおられましたので、私はそれで良いのだと思います。

という建前を確認した上で、「ぢめん」の話ですけれども、はてなブックーマークの方でも指摘されているように、これはちゃんと規則が用意されいます。

小学生が学校のテストで「地面」を「ぢめん」と書いて×にされてしまった。先生になぜ「じめん」と書くのかを質問したところ先生がたじたじになり「それは決まりだから」と答えてしまった、というものだ。
(中略)
つまり「鼻血」は「鼻」と「血」の連合だが、「地面」は「地」と「面」の連合ではないらしい。よく分からん。。もっというと「はなぢ」というのは血だから「ぢ」だったのではなく連合だったから「ぢ」なんだということ。意味不明だ。。ちなみに現代かなづかいの前に用いられていた歴史的仮名遣いでは単純明快で「血」だから「ぢ」、「地」だから「ぢ」というルールだったそうだ。

http://d.hatena.ne.jp/mtoyoshi/20080613/1213410155

「それは決まりだから」の理屈は「現代仮名遣い」の「第2(表記の慣習による特例)」において次のように説明されています。

[注意] 次のような語の中の「じ」「ず」は,漢字の音読みでもともと濁っているものであって,上記(1) ,(2)のいずれにもあたらず,「じ」「ず」を用いて書く。
例 じめん(地面) ぬのじ(布地)
ずが(図画) りゃくず(略図)

というわけで、「現代仮名遣い」においては、その先生は説明不足の悪いヤツです!生徒にはちゃんと規則の存在を教えてあげるべきではないでしょうか。なお「「地面」は「地」と「面」の連合ではないらしい」の部分については、それが連合であるかどうかが重要なのではありません。「現代仮名遣い」における「第2(表記の慣習による特例)」の5「次のような語は,「ぢ」「づ」を用いて書く。」の(2)は次のようになります。

(2) 二語の連合によって生じた「ぢ」「づ」
例 はなぢ(鼻血) そえぢ(添乳) もらいぢち そこぢから(底力) ひぢりめん
(後略)

よって連合であるか否かが問題とされているのではなく、連合によって生じた「ぢ」「づ」であるかどうかが問題となっています。血を「ぢ」とするのは連濁によるわけですから、これは「地」の場合(そもそも音読み表記が「じ」)とは異なります。これは良い悪いかはともかくとして、明確な基準となっています。

他にも「大詰め」と「差詰め」も、歴史的仮名遣いの場合だと「詰(つ)める」だから「おおづめ」「さしづめ」と書いていた。しかしながら現代かなづかいでは「おおづめ」と「さしずめ」らしい。。。

http://d.hatena.ne.jp/mtoyoshi/20080613/1213410155

これについても「現代仮名遣い」では「第2(表記の慣習による特例)」によって、「大詰め」は「おおずめ」(本則)でも「おおづめ」でも良く、また「差詰め」は「さしずめ」(本則)でも「さしづめ」でも構いません。好きな方で表記すればいいのではないでしょうか(ただし好きな方で書いていいのかどうか私には良く分からない例もあります)。

以上のように「現代仮名遣い」では指摘されているような「矛盾」というものは問題になりません。そもそも「現代仮名遣い」は「よりどころ」程度の存在ですから、中途半端でも仕方ないというか、そんながっちり固められても困るのでこの程度でいいんじゃないのかなぁと思います(というか多分がっちり固めてみようとして「現代かなづかい」で困ったから「現代仮名遣い」になったんですよね)。

確かに「現代仮名遣い」って、学校でちゃんと習った記憶がないのでそれについては問題かなぁ、と思います。しかし「現代仮名遣い」自体は中身がそんなにひどいわけでもないし現実的な提案だと私は思っています。「はなぢ」や「じめん」、「さしずめ」を例として歴史的仮名遣いへ回帰していこうとするのはあまり賛同を得られるものではないと思います。「かおおおおうおおい」(しかも現代仮名遣い「かおをおおうおおい」だとそれなりに読める気がします)にしたって、普通に漢字を使って表記すれば済む話ではないでしょうか。

...と思いました。なお漢字についても同様に、今更当用漢字の話をしても、と思います。常用漢字はそんなにもダメでしょうか?いや、入れ替えた方がいいんじゃない?と思う字はもちろんありますけれども、一応文字集合としてある程度の合理性があると私は思います。その社会的な運用について問題があると指摘するのであれば分かりますが、常用漢字も一応強制力はないわけで、それに固執しなければならない必然性もないと思います。「撒水」って書けばいいと思います。でも私は少なくとも、「體」とか「臺」とか書くのは面倒だと思うので、ある程度簡略化してくれてとっても良かったと思います。私の考えとしては現実万歳!って感じなのですが、いかかでしょう。

あとついでに、関係ない話ですがはてなブックーマークの方にこんなことに言及されている方がおりました。

2008年06月18日 bowbow99 最近の日本人は「お」と「を」の発音が違う気がする

最近の日本人がどうなのかはちょっと分からないのですが、方言で「お」と「を」を区別する場合はあるんじゃないかなと思います。私は方言については全然知らないので学問上どうなっているのかは分からないのですが、愛媛の出身の方で実際そういう人が大学に居ました。記憶では「を」を完全な円唇、「お」を非円唇か弱い円唇程度で発音していたんじゃなかったかと思います。実際耳で聴いてから本人に確かめてみたら、「みんな区別して発音しているんじゃないの!?」って驚かれたことがあります。こっちが驚くよ!ってツッコミたくなった記憶があります。